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“Family Practice(家庭医)”とは

月川クリニックは、アラモアナセンターに隣接するアラモアナビルディングの17階にある。待合室のキャビネットには花が飾られ、料理雑誌が並ぶ。女性らしい温かな空間で、クリニックにありがちな冷たさはまったく感じられない。

ピンクのスクラブ(アメリカの医療関係者が着用する仕事着)を着て、クルクルと身軽に動き回る小柄で優しそうな女性が、院長の月川一恵医師だ。アメリカの医師免許を持つ“家庭医”として、ここで週6日診察をする。日本ではあまりなじみのない家庭医とは、一体どんな診療を行うのだろうか。
「赤ちゃんからお年寄りまで、家族全員の診療を行うのが家庭医です。アメリカではまず家庭医に診てもらい、病気の内容によって専門医を紹介してもらうのが一般的です。通常5~6人の家庭医が一つのクリニックで診察に当たることが多いのですが、うちは女医である私一人。なので、患者様には成人の女性が多く、乳ガンや子宮頸ガンの検診も多いですね。旅行者の方もよくお越しになりますよ」

多くの試練を乗り越え、ハワイで開業

クリニックを開業して11年が経ち、ハワイの日本人コミュニティからの信頼は厚い。ハワイへは開業を目的に移住したのかと思いきや、意外なことにきっかけはご主人の転勤だそう。
「同じ医大で医師をしていた夫の研究のために、1991年にハワイに来たんです。当時、3人の子どもはまだ3歳、1歳、6か月。日本では子どもたちを保育園に預けながら、医大での激務をこなす必死の毎日だったので、ハワイではとりあえず専業主婦に。でも、24時間子どもたちと一緒にいると、それはそれで息つく暇もなく、子育てはたいへんだな~と(笑)。福島に比べてハワイは暖かくて楽だけど、四季がないのには戸惑いましたね」。
そんな専業主婦生活が2年過ぎたとき、ご主人が突然、日本の医大に帰ることに。
「急な人事上の都合だったので、またすぐに研究室に戻れるかもしれないということと、子どもたちもアメリカになじんだところだったので、とりあえず夫は単身赴任に。私自身もやっぱり医師に復帰したいという思いが募って、子育てをしながら、まずはハワイ大学の語学プログラム(HELP)で英語の勉強を始めました。だって英語が全然できなかったんですよ~」。

でもそこからは持ち前の集中力を発揮。ハワイ大学で心理カウンセリングの授業を受けたり、カピオラニ病院でのリサーチも開始して、アメリカの医師免許取得のための準備に専念した。外国人医師がアメリカで医師免許を取得するには、英語、基礎医学、臨床医学、国家資格の全テストに合格し、3年の研修を終えなければならないため、最短でも5年はかかる。努力の末、1999年に晴れて医師免許を取得。クアキニ病院に3年勤務して、ようやくこれから……!と思った2003年に、人生最大の試練がやって来た。
「日本にいる父がガンに、さらに妹まで乳ガンになってしまい、母からSOSがきました。子ども達もまだ小さいし、本当にこの時ばかりは途方に暮れましたね」。悩んだ末、ハワイの友人たちの手厚い支援もあって、子ども達をハワイに残し、看病のために日本へ一時帰国。「1年間看病に徹しました。父は残念ながら逝きましたが、妹は見事に回復したんですよ!」。
翌年、ようやくハワイに戻り、ある医師のクリニックの一室を借りて、ひっそりと診療を開始した。「でもそのクリニックが翌年閉まることになって。気が付けば、他の医師は全員次の勤務先を見つけていて、残されたのは私一人。そしたらなんと、そのクリニックのスペースを引き継ぐ権利が回ってきたんです」。エイヤ~ッとばかりに決断し、2005年に月川クリニックを開業した。

ハワイの医療現場で一番苦労することは何かと聞いてみたところ、ズバリ!健康保険のシステムだという。「国民健康保険がある日本と、すべて民間の保険会社が牛耳っているアメリカではまったく違いますね。保険会社によってカバーする診療内容やカバー率も違うため、保険の手続きはとても複雑。個人負担が大きいため、収入、年齢、家族構成などによる不平等が発生しています」。また、医療費がバカ高いことも大きな違い。「日本から旅行に来るときは、必ず海外旅行傷害保険をかけて来てくださいね。転んで背骨を折った老婦人が、ハワイで手術・入院をして、数千万円の請求書が届いたという例もありましたから。クレジットカードに付帯する保険で救われた例もたくさんあります。日本では現金決済をしている方も、ハワイに来る時にはクレジットカードを持ってきたほうがいいと思いますよ」。
ハワイにいても診療優先で自分の時間はなかなか取れないが、ハワイに来てよかったと思うことも多い。「女性であってもいいたいことをはっきり主張できるのがハワイのいいところ。日本は、その点まだまだ閉鎖的じゃないかしら。就職にも年齢制限がないから、やりたい仕事が見つかればいつまででも挑戦できるのも素晴らしいですよね。女性にとっては選択肢が多いので、これからハワイで暮らす女性には、ぜひキャリアを持ってほしいと思います」。

プロフィール

月川一恵さん
北里大学医学部卒業。福島県立医科大学の眼科学教室(5年)、婦人科教室(4年)に在籍後、1991年、ご主人の転勤に伴い、3人の子ども(3歳、1歳、6か月)を伴い、ハワイへ移住。1999年に米国の医師免許を取得。クアキニ病院で3年間の勤務の後、2005年に月川クリニックを開業。家庭医として、週6日、幅広い年齢層の患者の診察にあたる。

お問い合わせ

Tsukikawa Clinic
月川クリニック

1441 Kapiolani Blvd., #1730, Honolulu(アラモアナビルディング17F)
Tel:808-941-7770
tsukikawaclinic.com

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